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神戸地方裁判所 昭和63年(ワ)1641号 判決

原告

宮本弘枝

ほか一名

被告

西本智一

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告らに対し、それぞれ金三二八万一六〇〇円及び内金二九八万一六〇〇円に対する昭和六三年三月一日から右各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの負担とし、その余は原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告らに対し、それぞれ金一〇二九万〇九七二円及び内金九四九万一九九四円に対する昭和六三年三月一日から右各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

発生日時 昭和六三年三月一日午後七時一五分ころ

発生場所 神戸市北区五葉六丁目一四番三三号地先県道明石・神戸宝塚線

事故車 普通乗用車(三菱パジエロ)

運転者 被告西本和浩(以下「被告和浩」という。)

被害者 事故者に同乗中の亡宮本一郎(以下「亡一郎」という。)

事故の態様 被告和浩が事故車を運転中、事故車の左後部を街路樹に激突・横転させたため、事故車の後部座席左端に同乗していた亡一郎が車外に放り出された。

事故の結果 亡一郎は、本件事故により頭蓋骨骨折、脳底骨折、脳挫滅の障害を受け、ほぼ即死の状態で死亡した。

2  責任原因

被告西本智一(以下「被告智一」という。)は事故車の保有者であるから、自賠法三条により、被告和浩は、運転操作の誤りにより事故車の左側後部を街路樹に激突・横転させたものであるから、民法七〇九条により、原告らの後記損害を賠償すべき責任がある。

3  損傷

(一) 亡一郎の損害

(1) 逸失利益 金二三五八万七〇七六円

亡一郎は、死亡当時満一八歳の健康な男子であつたから、就労可能年数は一八歳から六七歳までの四九年間、算定基礎年収は、昭和六二年度賃金センサス高校卒一八歳の男子の平均賃金一九三万二一〇〇円とし、生活費は右収入の五割、中間利息は新ホフマン係数により控除すると、右の計算式のとおり金二三五八万七〇七六円となる(円未満切捨て)。

1,932,100×(1-0.5)×24.416≒23,587,076

(2) 慰謝料 金一六〇〇万円

(3) 相続

亡一郎は、原告ら夫婦の長男であるところ、亡一郎の死亡により同人の右損害賠償請求権の全額(金三九五八万七〇七六円)をそれぞれ法定相続分に従つて二分の一ずつ相続した(それぞれ金一九七九万三五三八円)。

(二) 原告らの積極損害

(1) 文書料 合計金六万九八〇〇円

(内訳)

(イ) 検案料他(松森病院) 金五万四〇〇〇円

(ロ) 死亡診断書(松森病院) 金八〇〇〇円

(ハ) 事故証明書(自動車安全運転センター) 金三六〇〇円

(ニ) 戸籍謄本・印鑑証明(兵庫区役所) 金四二〇〇円

(2) 葬儀費用 合計金一九二万四四一二円

(内訳)

(イ) 葬儀費用 金一一四万三四一二円

(ロ) 戒名料 金二〇万円

(ハ) お布施(昭和六三年九月一日までの各忌日のお布施等) 金五八万一〇〇〇円

(3) 墓石建立費 合計金二四〇万五〇〇〇円

(内訳)

(イ) 墓園当初使用料 金四〇万五〇〇〇円

(ロ) 墓石工事代 金二〇〇万円

(4) 原告らは、右(1)ないし(3)の費用合計金四三九万九二一二円を二分の一宛負担した(それぞれ金二一九万九六〇六円)。

(三) 損害のてん補

原告らは、自賠責保険から、亡一郎の死亡による損害のてん補として金二五〇〇万二三〇〇円の支払を受け、これをそれぞれ二分の一(金一二五〇万一一五〇円)づつ自己の損害賠償請求権(金二一九九万三一四四円)に充当したので、原告らの残損害額は、それぞれ金九四九万一九九四円となる。

(四) 弁護士費用 金一五九万七九五七円

原告らは、本件訴訟の提起及び追行を原告代理人らに委任し、被告らに賠償を求めうる右弁護士費用は金一五九万七九五七円が相当であるので、それぞれ二分の一(金七九万八九七八円、円未満切捨て)づつを請求する。

4  結論

よつて、原告らは、被告ら各自に対し、それぞれ金一〇二九万〇九七二円及び内金九四九万一九九四円(弁護士費用を控除した残額)に対する本件事故発生日である昭和六三年三月一日から右各支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告らの主張

1  請求原因1、2の事実は認める。

2(一)  同3(一)の損害及び相続はすべて争う。

なお、亡一郎は、昭和六三年度大学受験に合格しておらず、少くとも一年間は無収入の状態が継続するのであるから、就労可能年数は四八年、ホフマン係数は二三・四六四(二四・四一六-〇・九五二)として計算すべきである。

(二)  同3(二)の損害はすべて争う。

葬儀に関する費用は、葬儀費そのものではなく、葬儀の時期を早めたことに対する損害であるから、支出した葬儀費全額と認めるべきではなく、亡一郎の年齢、社会的地位等を考慮して、そのうちの相当額に制限すべきであるところ、亡一郎は無職の未成年者であつたから、その額は金八〇万円が相当である。

(三)  同3(三)の事実のうち、原告らが、自賠責保険から、亡一郎の死亡による損害のてん補として金二五〇〇万二三〇〇円の支払を受けたことは認める。

(四)  同3(四)は争う。

三  被告らの抗弁

1  本件は、被告和浩が亡一郎らを同乗させて食事に赴く途上の事故であるから、損害額の算定にあたり、好意同乗による相応の減額がなされるべきである。さらに、本件事故はまた、被告和浩が、同乗者らに対し、「定員オーバーなので、誰か降りてくれ。」と言つたにもかかわらず、亡一郎を含め誰も降車しなかつたため、定員オーバーにも起因して生じたものであるから、かかる事実を過失相殺の事由ないし好意同乗の一要素として斟酌すべきである。

2  原告らは、昭和六三年三月二〇日、被告らから、損害のてん補として金一〇〇万円の支払を受けた。

四  抗弁に対する認否及び原告らの主張

1  抗弁1の主張は争う。

本件においては、亡一郎らが事故車に同乗したのは、被告和浩からの勧誘によるものであり、かつ、本件事故そのものの原因は、被告和浩の故意ともいえるような無謀運転によるものであるから、好意同乗による減額を認めるのは、衡平の原則に反し許されないというべきである。

2  同2の事実は認める。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求原因1(交通事故の発生)及び2(被告らの責任原因)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。したがつて、被告智一は自賠法三条により、被告和浩は民法七〇九条により、本件事故によつて原告らが被つた損害を賠償すべき責任がある。

二  そこで、原告らの被つた損害について判断する。

1  亡一郎の損害

(一)  逸失利益

原告宮本壽之本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、亡一郎は、原告両名の長男として昭和四四年七月一日出生し、本件事故当時満一八歳の健康な男子であつたこと、亡一郎は、原告らに養育されて、昭和六三年三月一日兵庫県立鈴蘭台高等学校を卒業したが、大学受験に失敗したため、浪人するか、就職するかを決めようとしていた矢先に本件事故により死亡したこと、以上の事実が認められる。

そうすると、亡一郎の就労可能年数は四九年と認めるのが相当であり、右就労可能期間につき昭和六二年度賃金センサス一八歳男子労働者新高卒平均年間給与額金一九三万二一〇〇円程度の収入を挙げ得たものというべきであるから、生活費として五〇パーセントを控除し、右就労可能年数につき新ホフマン係数二四・四一六をもちいて逸失利益の現価を算定すると、右の算式のとおり金二三五八万七〇七六円となる(円未満切捨)。

1,932,100×(1-0.5)×24.416≒23,587,076

(二) 慰謝料

前記(一)の冒頭で認定の事実のほか諸般の事情を考慮し、亡一郎が死亡により被つた精神的苦痛を慰謝するには金一五〇〇万円をもつて相当と認める。

(三) 相続

亡一郎は右損害賠償請求権(合計金三八五八万七〇七六円)を有するところ、原告両名が亡一郎の両親であることは前記認定のとおりであるから、原告両名は、亡一郎の死亡により同人から右損害賠償請求権をそれぞれ法定相続分にしたがつて二分の一ずつ相続した(それぞれ金一九二九万三五三八円)。

2  原告らの損害

(一)  文書料

成立に争いのない甲第四号証、原告宮本壽之本人尋問の結果によりいずれも成立を認めうる甲第五号証の一ないし四、原告宮本壽之本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨によると、原告らは、亡一郎の死亡による文書料として、合計金六万九八〇〇円を要し、これを二分の一ずつ負担した事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

(二)  葬儀関係費用

前掲甲第四号証、いずれも成立に争いのない甲第六号証の一ないし三、同第七号証、同第一三号証の一ないし三、原告宮本壽之本人尋問の結果によりいずれも成立を認めうる甲第八号証の一ないし一四、同第一四号証の一、二、原告宮本壽之本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨によると、原告らは亡一郎の葬儀費用として合計金一九二万四四一二円を、墓石建立費用として合計金二四〇万五〇〇〇円をそれぞれ要し、これらを二分の一ずつ負担した事実を認めることができるけれども、葬儀費用についてはそのうち金八〇万円の限度(原告両名につき各金四〇万円の限度)で、また墓石建立費についてはそのうち金五〇万円の限度(原告両名につき各二五万円の限度)でそれぞれ本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

3  まとめ

以上によれば、原告両名の損害合計額は、それぞれ金一九九七万八四三八円となる。

4  好意同乗

前記一で認定の事実に、いずれも成立に争いのない乙第一号証の一、二、一〇、一一、証人吉野具宏の証言(ただし、後記信用しない部分を除く。)、被告西本和浩本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨を総合すれば、(1)被告和浩と亡一郎は、昭和六三年一月中旬ころから同年二月末までの間、神戸市北区鈴蘭台南町所在の茂西建設で一緒にアルバイトをしていた関係で互いに知り合うようになり、親しくなつたこと、(2)本件事故当日は、夕方に茂西建設からアルバイト料が支給されることになつており、被告和浩も亡一郎も朝から茂西建設で働いていたが、日中、被告和浩は、亡一郎から、「印鑑を取りに家まで戻るので、鈴蘭台の駅まで車に乗せてくれないか。」と依頼され、同人を事故車(三菱パジエロ、定員七名)に同乗させて鈴蘭台の駅まで送つてやつたことがあつたこと、(3)同日午後六時五〇分ころ、被告和浩及び亡一郎を含む仲間七名は、茂西建設でアルバイト料の支給を受けたこと、その際、同日限りアルバイトを辞める亡一郎と吉野具宏の送別のために、北区山の街で食事をする話がもち上がり、被告和浩も参加するよう誘われたが、被告和浩は、同夜友人と会う約束があつたことから右誘いを断つたところ、他の者から、「山の街にある飲食店「モツコス」まで全員を車で送つてくれ。」と依頼され、被告和浩は、右仲間六名を同乗させても事故車の定員の範囲内であつたので、これを承諾したこと、(4)ところが、出発間際、仲間の一人が茂西建設の従業員を連れてきたことから、事故車の定員がオーバーし、被告和浩が、定員が一名オーバーなので同乗者のなかから誰か一人降車してくれるよう求めたが、聞き入れてもらえなかつたため、被告和浩は、やむを得ず、定員オーバーのまま亡一郎を含む七名を事故車に同乗させ、「モツコス」へ送るべく茂西建設を出発したこと、なお、亡一郎は、後部二列目の左端の座席に同乗したこと、(5)被告和浩は、同日午後七時一五分ころ、時速約四〇キロメートルで事故車を運転し、本件事故現場付近の十字路交差点手前にさしかかつた際、対面する東西用信号が青色のうちに右交差点を右折してしまおうと考え、同交差点を時速六〇キロメートルに加速して右折進行したため、当時アスフアルトの路面が雨のため湿潤であり、かつ、事故車が定員オーバーの状態であつたことから、事故車は、車体の安定を失い、下り勾配の右方道路(南北道路)で車体後部を振つて蛇行を始めたこと、被告和浩は、ハンドルの自由を失つて事故車を左右に滑走させたため、事故車の左後部を街路樹に衝突させ、その衝撃により事故車を横転させた結果、前記のとおり事故車の後部座席左端に同乗していた亡一郎を車体外に放り出すという本件事故を惹起したこと、以上の事実が認められる。

原告らは、亡一郎が事故車に同乗したのは、むしろ被告和浩に誘われたためであり、かつ、被告和浩は、本件事故現場付近において、故意に近い無謀運転をしたと主張し、証人吉野具宏の証言及び原告宮本壽之本人尋問の結果中には右主張に添う供述部分があるが、いずれも前掲各証拠に対比してにわかに信用できず、他に、前記認定を左右するに足る証拠はない。

右認定事実によれば、本件事故の発生には、亡一郎ら同乗者が事故車に定員オーバーの状態で同乗していたという意味で、その原因の一端に関与しているといえないわけではないうえ、亡一郎らを送り届ける途中で生じた事故である点をも考慮し、原告らに帰属の損害につき二〇パーセントの減額をするのが相当である。そうすると、原告らの損害は、それぞれ金一五九八万二七五〇円(円未満切捨)となる。

5  損害のてん補

原告らが、亡一郎の死亡による損害のてん補として、自賠責保険から金二五〇〇万二三〇〇円の支払を受け、また、昭和六三年三月二〇日、被告らから金一〇〇万円の支払を受けたことは、いずれも当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、原告らは、右金二六〇〇万二三〇〇円を法定相続分の割合で原告らの前記損害に充当したことが認められるから、これを控除すると、原告らの残損害額はそれぞれ金二九八万一六〇〇円となる。

6  弁護士費用

原告らが本訴の提起追行を弁護士に委任していることは明らかであるところ、事件としての難易度や認容額などを考慮し、原告両名につきそれぞれ金三〇万円の限度で本件事故と相当因果関係のある弁護士費用と認める。

三  以上のとおりであるから、原告らの本件請求は、被告ら各自に対し、それぞれ金三二八万一六〇〇円及び内金二九八万一六〇〇円(弁護士費用を控除した残額、訴旨による。)に対する本件事故の日である昭和六三年三月一日から右各支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからいずれもこれを認容し、その余の請求は理由がないのでいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三浦潤)

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